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 【万事屋】

文:緋茜 絵:六八

『夕暮れ時の家族』


新八は万事屋の台所に立ち、さて何を作ろうかと思案する。

昨日などは食費の関係で簡素にも程がある食事であったが──それでも夜兎である神楽の食事量は常人に比べると多かったのであるが──今日は幸いにして依頼があった為、豪勢な食事だ。

そういえば唐揚げが食べたいと言っていたので、材料があったっけ?と思い出しながら新八は冷蔵庫に入れてあった鶏肉を取り出す。

さあ、調理開始だ。

 

 

神楽はからからと番傘を回しながら、万事屋へ上る階段の中ほどに腰掛けて街を眺めていた。

新八が先程から夕食を作り始めたのは分かっている。

そもそも万事屋の食事事情は当番制ではあるものの大抵彼がこなしているのである。

銀時などは、普段はパチンコやら菓子類を食したりぐーたらと過ごしているが、神楽は日々街に繰り出しては夜兎の誇る身体能力で以て動き回り、腹を空かす。

常ならば定春も一緒なのだが、生憎と今日はいない。

頻繁にある訳ではないが、定春は時折ふらりと独りでに散歩に出かけるのだ。

気付いたらいなくなり、気付いたら帰って来るので心配はしていないが、何をしているのかまでは把握できていない。

まあ、おおよそは理解しているが。

 

「まだアルかー、新八ぃ」

 

「まだだよ」

 

先程からぐうぐうと喧しい腹の虫に耐えかねて声を上げれば、家屋の壁を経てややくぐもってはいるが返事が返って来る。

 

「あと銀さん、まだ帰って来てないでしょ。今日は何もないって言ってたし、帰って来るまで待とうよ」

 

「えー。あんなちゃらんぽらん待つアルかぁ?」

 

「ほらそう言わないで。神楽ちゃんだってみんな揃って食べたいでしょ?」

 

むう、と唇を尖らす神楽であるが、別に異論はない。

三人で揃って食卓を囲むのは、案外少ないし、そうであるからこそ三人揃っての食事は何より神楽にとって楽しいものなのである。

そうなれば神楽には待つ以外の選択肢はない。

暗くなっていく空にもういいかと判断して傘を畳んだ。

次第に灯りが点っていく町並みを普段よりか僅かばかり高い位置から睥睨しながら、見慣れた鈍い銀色はいやしないかと良く良く目を凝らす。

行き交うのは大半が黒髪や茶髪の人間、時折異邦人たる天人が混じる。

誰もが、自分の帰る場所へと向かっている。

そこにはきっと、ちょうど今の新八の様に食事の用意だったり、風呂を沸かしたりして待つ家族がいるのだろう。

家族、家族、か。

思考を更に巡らせようとしたところで、下から声がかけられる。

 

「神楽ァ」

 

「! 銀ちゃん!お帰りなさいヨ!!」

 

ついさっきの減らず口はなんだったのかと思いたくなるほど神楽はキラキラと蒼い瞳を輝かせて飛び上がる。

階段を上って来る銀時が並ぶのを待って彼に纏わりつかんばかりに引っ付く神楽の頭を、彼はがしがしと聊か乱雑に撫でまわす。

 

「たでーまー」

 

「あ、お帰りなさい銀さん」

 

「おー。あ、唐揚げか?豪勢だなァ」

 

「神楽ちゃんが唐揚げ食べたいって言ったんで、唐揚げにしたんですよ」

 

ね、と同意を乞われた神楽は、うん!と元気良く頷いた。

微笑ましげな新八の背後で、ちょうど銀時が油を切っている最中の唐揚げに手を伸ばすのを、神楽はしかと目にした。

 

「ああああ!ズルいアル銀ちゃん!私も食べたい!!」

 

「は?…って銀さん!?摘まみ食いなんてしないで下さいよ!神楽ちゃんももうすぐだから!」

 

「うっへぇ。もぐもぐもぐ…」

 

がいがいがやがや。

ちょっとだけ豪勢でちょっとだけ何時もより温かな夜は、こうして更けていく。

 

 

 

私は何よりこの日々が愛おしいのです
 

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