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 【攘夷】

文:みう 絵:碧猫

 

 ここ最近、天人の動きは一向に掴めず拠点としている廃寺から動けずにいた。

 とは云え、男ばかりの大所帯。

 戦は無くとも減るものは減る。

 

 「嗚呼、無くなっちまった」

 銀時は最後の一粒になった米を口に入れ、ため息を吐いた。

 「何が無くなっちまった、だ。テメェが人の何倍も食うからだろ!」

 高杉は銀時の頭を拳で思い切り殴った。

 「いってぇー」

 「自業自得だな」

 桂は涼しげな顔をして、たくあんの切れ端を口に放り込む。

 「ああああーーーそれはわしのぜよ!」

 その隣では坂本が悲鳴を上げた。

 「たかがたくあんの端切れごときで日本男児たるもの叫ぶものではない」

 「最後に食べようと思って残しておったのに……」

 「最後に残すものは嫌いなものと相場は決まっておる」

 嫌いなものを食べてやったのだから自分に感謝しろと、誇らしげに桂は云った。

 それを聞いた坂本は突っ伏して泣いた。

 

 「あー腹減ったな」

 まだまだ若い食べ盛りだと云うのに長引く戦で食糧は底をついた。

 腹は減るのに戦は続き、食糧を調達することは困難になるばかり。

 仰げば真っ青な空。腹の虫が鳴った。

 

 銀時は桂と坂本のやり取りにうんざりしてその場を静かに離れた。

 

風通しのいい縁側に場所を移した銀時。

しかし、空腹でどんよりとした気分は拭えない。それをやり過ごそうと無理に昼寝でもしようかと試みるが、目は覚めるばかり。ぐるぐると食べ物のことが頭から離れず眠れない。

突然、後ろから間抜けな音が聞こえた。振り向くと高杉が佇んでいる。

「あらー晋ちゃん空腹ですかぁー」

「五月蝿い」

また高杉から腹の虫が鳴る音が聞こえた。

起き上がり、じっと顔を見ると顔がみるみる赤くなっていった。

「金はあるのにな。食うもんが無いなら意味がない」

「まったくだ……」

高杉は不機嫌そうに銀時の横に腰を下ろし同じように寝転がる。

「菓子食いてぇ……糖分が足りねぇ」

 

 相変わらず空は憎らしいほど清々しい快晴で腹は満たされなくて。

 穏やかに流れる時間の中で、暖かい太陽の光とそよ風に誘われ、いつの間にか微睡の底に沈んでいった。

 

 

 

 

 懐かしい匂い。

 優しい声。

 

ごはんが出来ましたよ。

 

 これから夕餉なのだと銀時は思った。

 

銀時の好きなものを沢山作りましたからね。

 

 今日も楽しかったよ先生。相変わらずヅラは口煩くて、高杉は面倒な奴だったけど。

 嗚呼、俺の好きなものばかりが食卓に並んでいる。なんて幸せなんだろう。

 

 

 「ぐぇっ!」

 一瞬息がつまり、その直後、腹に鈍い痛みが広がった。

 「面倒な奴で悪かったな」

 「あれ?夕餉は?先生……」

 銀時は周囲をぐるりと見渡してから自分が夢を見ていたことに気付いた。

 「あー折角の夕餉だったのにお前の所為で食べ損ねた!」

 銀時はギロリと高杉を睨みつけると腹を擦った。

 「夕餉?嗚呼、夢の話か。夢の中でメシ食うなんて器用な奴だ」

 「食う前にお前が蹴り飛ばしたんだろうが」

 高杉はニヤリと口角を上げて笑う。

 「夢の中での夕餉で満足出来るなら安上がりだな。生憎、こっちの食糧問題は変わってない」

 そう云うと懐から綺麗な包み紙を取り出し、ゆっくりと銀時に見せつけるように開く。その中には色とりどりの金平糖。

 それを見た銀時は唾を飲んだ。

 高杉はそれをひとつ摘まみ銀時の口の中に押し入れた。

 「これで少しは我慢しろ」

 「嗚呼、生き返った……」

 

腹は満たされないが金平糖の甘さがじんわりと体中に染み渡る気がした。

 

 

 

 

 

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